
「言葉の裏」を読むAIへ - 意図解釈システム(Intent Parser)の設計
はじめに
「青空文庫から読んで覚えて」
人間なら「青空文庫というサイトにあるテキストを使って学習するんだな」と直感的に理解できます。しかし、従来のAIにとって、これは単なる文字列の羅列に過ぎませんでした。
場合によっては「青空文庫についてWikipediaで調べる」という、まったく見当違いの行動をしてしまうこともあります。言葉は聞こえているのに、意味が届いていない——これが従来のNLU(自然言語理解)の限界でした。
今日は、こうした「ユーザーの真意」を正確に汲み取るためのコアモジュール、Intent Parser(意図解釈システム)の設計思想についてお話しします。
なぜ「意図」の解釈が必要なのか
言語行為論から見るコミュニケーション
哲学者ジョン・サールの言語行為論(Speech Act Theory)によれば、私たちの発話には3つの層があります:
| 層 | 名称 | 例(「暑いね」の場合) |
|---|---|---|
| 表層 | 発話行為(Locution) | 「暑い」という言葉を発した |
| 中層 | 発話内行為(Illocution) | 感想を述べた/依頼をした |
| 深層 | 発話媒介行為(Perlocution) | 相手にエアコンをつけさせた |
従来のチャットボットは「表層」しか見ていませんでした。しかし、真に人間を理解するAIを目指すなら、中層——発話内行為を読み解く必要があります。
「暑いね」が単なる気温の報告なのか、「エアコンをつけて」という遠回しな依頼なのか。これを文脈から見抜く能力こそ、Intent Parserの核心です。
設計アプローチ:構造化と確信度
曖昧さから構造へ
Intent Parserは、自然言語の曖昧さを構造化されたデータに変換します。
例えば「青空文庫から銀河鉄道の夜を読んで覚えて」という入力は、以下のような要素に分解されます:
- 行為タイプ: 依頼(感想や質問ではない)
- 意図: 記憶・学習させる
- 対象: 「銀河鉄道の夜」
- 情報源: 青空文庫(検索対象ではなく、データ取得元)
- 手段: 読み込んで学習
この分解により、「青空文庫」が「検索キーワード」ではなく「情報源の指定」であることを正しく識別できます。
メタ認知による自己監視
ここで重要なのがメタ認知(Metacognition)の概念です。
心理学者フラヴェルが提唱したこの概念を応用し、Intent Parserには「自分の解釈を監視する」機能を組み込んでいます:
- モニタリング: 「この解釈に十分な確信があるか?」
- コントロール: 確信度が低ければ、推測で動かずユーザーに確認する
解釈確信度: 高 → そのまま実行
解釈確信度: 低 → 「〇〇という意味でよろしいですか?」と確認
これにより、AIが「分かったつもり」で暴走することを防ぎます。
応答生成(NLG)への波及効果
意図の正確な理解は、応答の質を劇的に向上させます:
| 識別された意図 | 最適な応答パターン |
|---|---|
| 感想・共有 | 共感や同意(「そうですね、私も好きです」) |
| 質問・疑問 | 情報提供(「それは〇〇です」) |
| 依頼・命令 | 承諾と実行(「分かりました、読み込みます」) |
| 確認・不安 | 安心の提供(「はい、正しく処理されています」) |
「すみません、よく分かりません」という画一的な応答ではなく、意図に応じた自然な対話が可能になります。
おわりに
言葉は単なる音や文字の連なりではありません。そこには必ず話者の意図——心が込められています。
Intent Parserの設計は、Yuiがその「心」を受け止め、適切な行動で応えるための土台です。表面的なキーワードマッチングを超え、人間同士の対話のように「察する」ことができるAI——その実現に向けて、今日また一歩前進しました。
次のステップでは、このIntent Parserと連携するデータベース設計を進めていきます。